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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1758号 判決 1975年12月16日

控訴人 竹内洋子

右訴訟代理人弁護士 小林芝興

久連山剛正

被控訴人 学校法人城右学園

右代表者理事長 田久篤次

右訴訟代理人弁護士 小幡正雄

石原輝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。控訴人が被控訴人に対し雇用契約に基づく権利を有することを確認する。被控訴人は控訴人に対し金二二〇、九一六円および昭和四五年七月から控訴人を復職させるに至るまで毎月二一日限り金三五、四〇五円をそれぞれ支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決並びに金銭支払の部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は左記のほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

≪証拠関係省略≫

理由

一、被控訴人が肩書地において城右中学校、同高等学校(いずれもいわゆる女子学校)を設置経営する学校法人であること、控訴人が昭和四二年四月一日理科教諭(但し昭和四三年四月一日から理科専任講師となる)として被控訴人に雇傭され、城右高等学校で生物、化学の授業を担当していたこと、及び被控訴人が昭和四四年一二月一日控訴人に対し同日限り控訴人を解雇する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

被控訴人が右解雇の意思表示をすると同時に、解雇予告手当として三〇日分の平均賃金の支払を準備し、控訴人に対しその旨を告知して受領の催告をしたことは控訴人において明かに争わないから右事実を自白したものとみなされる。

控訴人は、被控訴人のなした右解雇はその理由を示さずになされたものであるから、違法であるというが、解雇の意思表示をなすにあたりその理由を示さなかったとしても、これがため解雇の効力が左右されることにはならない。

二、被控訴人は、控訴人には就業規則第三三条に該当する行為があり、かつ同第三六条にいわゆる控訴人に改善の見込がなく、また被控訴人学園の統制上在職も許されない場合と認められたので、控訴人を解雇したものであると主張し、控訴人は、被控訴人の主張する解雇理由は全く根拠がないか、または合理性を欠くもので、権利の濫用として無効であると主張するので判断する。

(一)  ≪証拠省略≫によれば、被控訴人学園には就業規則が存在し、その第三三条では職務上の義務に違反したとき或は道義紊乱の行為、国法に違反した行為のあったときは制裁を行う。第三四条では制裁は教戒と解職の二種とする。第三六条では解職は本人改善の見込なしと認められたとき、または学校の統制上在職を許されないと認められたときにこれを行うとそれぞれ規定されていることが認められる。

(二)  被控訴人の主張する個々の解雇事由に対する当裁判所の認定及び判断は左記を附加するほかは原判決の事実摘示(原判決二二枚目裏一〇行から四三枚目裏七行まで、但し同三七枚目裏一〇行に「一一月三日」とあるのを、「一一月一三日」と訂正する)における判示と全く同一であるから、これをこゝに引用する。

≪証拠省略≫によっては前記認定及び判断を左右しえない。とくに、

(1)  ≪証拠省略≫中、昭和四四年一〇月九日に開かれた生徒総会が混乱したのは学校長及び生徒指導教師である後藤教諭の発言がその原因である旨の部分は、≪証拠省略≫に対比してにわかに措信し難く、かえって右各証言によれば同生徒総会が混乱したのは控訴人の言動が原因をなしたものであることを認めるに十分である。

(2)  ≪証拠省略≫中には、控訴人が昭和四四年一一月一三日頃工業用濃硫酸一八リットルを購入した際には理科教科主任である高橋教諭の口頭による許可を得た旨の部分があるが、右は≪証拠省略≫に対比して措信することができない。被控訴人の職務分掌規程に、物品購入については教科主任の許可を得た後庶務係を通じて購入しなければならない旨の定のあることは前に認定したとおりであるから控訴人のなした工業用濃硫酸の購入行為はその使用目的のいかんに拘らず右職務分掌規定に違反するものといわなければならない。

(3)  ≪証拠省略≫によれば、控訴人は月経困難症であること及び昭和四四年一月一七日、二月一〇日、三月九日、八月二一日、九月二二日当時生理中若くは、医師の投薬を受けていた事実が認められるので、その為に欠勤したものとすれば、欠勤自体については止むを得ないものがあるとしても、右各日についても被控訴人に対し欠勤届をしていないことは前に引用部分において判示したとおりであるから、いずれにせよ就業規則第五条違反の責は免れない。控訴人は当審での本人尋問においても無断欠勤の事実は全くない旨供述しているが右各供述は前記引用部分において挙示した各証拠に照らして、にわかに措信することができない。また、≪証拠省略≫は控訴人本人の記載した手帳であって、その記載だけでは同年五月一二日、六月七日の各欠勤、六月六日の遅刻、七月二日の早退がいずれも生理のためであるとの事実も認めるには足りない。そればかりではなく、控訴人は昭和四四年一月八日から同年一一月一七日までの間に遅刻二四回、早退九回に及んでいることも前記引用部分において認定したとおりであるから、控訴人の勤務状況は不良であると認められても已むを得ないものといわなければならない。

(三)  ≪証拠省略≫を総合すると、被控訴人学園では昭和四四年一一月二六日、二八日、二九日及び一二月一日にそれぞれ職員会議を開き、その席上控訴人に対し、他の職員全員から控訴人の従来の反学園的言動につき反省を促し、学園の方針を理解し全職員との協力方を要請したが、控訴人は自己の言動の正当性を主張して譲らなかったので同年一二月一日の職員会議の席上校長から控訴人に対し前記認定の具体的事実を集約抽象化した六項目につき爾後その言動をつゝしむ旨の誓約を求めたが、控訴人がこれに応じなかったため、被控訴人は同日控訴人を解職する旨の意思表示をしたものであることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(四)  以上によれば、控訴人が(1)コース制を批判したこと。(2)五段階評価法によらない成績評価をしたこと。(3)生徒総会を混乱させたこと。(4)始業時間に関する指示を無視したこと。(5)清掃に関する生徒指導を阻害したこと。(6)下校に関する生徒指導を怠ったこと。(7)許可なく物品を購入したこと等の解雇理由はいずれも被控訴人学園の教師としての職務上の義務に違背するものということができる。もっともこれらの事由を個々的にみれば解雇の事由とするには乏しいと見られないではないが、私立学校にはそれなりの伝統校風・教育方針が存在するのであって、これらを承知の上雇傭関係に入ったものは学校の定める諸規則・教育方針に従うのは当然のことであり、自己の抱懐する教育観ないし教育方針に副わない点があれば正規の方法によりこれが検討是正を求めるのはかくべつこれを教育の場ないし自己の分掌外において実践することは許されないものといわなければならない。従って、前示控訴人の行為を総合すると、右は被控訴人の諸規則及び教育方針を敵視する態度の表現とみるべきであり、加うるに勤務状態不良の事実もあるので、控訴人は被控訴人学園の教師として不適格であり、且つ改善の見込もなく、また学園の統制上在職を許されないものと認められるから、被控訴人が就業規則第三三条、第三六条に該当するものとして、解雇予告手当として平均賃金三〇日分を提供してなした本件解雇は合理的な理由があり、有効であって、権利の濫用には当らないものといわなければならない(なお本件解雇が控訴人の労働組合結成の準備に参加する行為を嫌悪してなされたものとする証拠は全くない)。

三、よって、以上と同旨で控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 古川純一 岩佐善巳)

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